修理要請は「まったなし」で突然やってくる
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下倉楽器お茶の水店には、リペアセンターが完備されている。 一階のギターフロアから順に階段を昇っていくに従って次第に街の喧噪は遠のき、最上階のりペアセンターは木管金管それぞれのスペシャリストが、いつも静かに作業を展開している。人は大勢いるのだが、ひとりひとりが真剣に目の前の楽器と取り組んでいるのだ。その場にいるだけで、こちらの身も引き締まる雰囲気である。 「今はコンクール時期ですからね、毎日かけこみがあるんです」 リペアセンターの「マネージャー」をつとめる坂元明氏は、同店きってのスペシャリスト。その技術はプロフェッショナルかも高く評価されているが、愛嬌のある風貌はいわゆる気難しい職人気質とは無縁のように思える。が、その笑顔の裏にはさまざまな想いがうずまいているようだ。 「本当に、本番直前でタンポがとれちやった!なんて青ざめて駆け込んでくる子供達を見ると、とても心が痛むんです。どんなに忙しくても、とにかくなんとかしてあげよう、と思って…」 どんなことがあってもにこやかな笑顔を絶やさないのは、お客に余計な心配をかけないため、なのかも。 「この仕事は、救急病院みたいなところがありますね。毎日、どんな『病人』がくるのかわからない(苦笑)。だからスタッフには、どんな急な『駆け込み』にも、できるだけ誠意をもって対応するように指導しているんです」 しかしいくら「誠意」があっても、どうしようもない故障や事故はあるもの。そのような場合でも対処はできるのだろうか?取材班が見たところ、工房はとても整理整頓されているけれど、たとえば修理に必要な大型工具等は見あたらない。そのことをおそるおそる聞くと坂元氏は「フフフフ」と不敵な笑顔。 「まあ、別のところで話しましょうか?」 え?ど、どこへ連れていくんです?ま、まさか。想像はあらぬ方向へ走りかけるが、押し殺して階段を昇る坂元氏についていく。 隠されていた秘密兵器たち連れていかれた先は、屋上。物置きがあって、そのまわりには朝顔等が涼し気に栽培されているが、それを自慢するためではなさそうだ。 物置き、ではなかったのだ。中には本格的な「パフ」が装備されていた。パフ、つまり金属を磨きあげる装置である。高速回転する綿布で、金属表面をきれいに磨きあげる装置。な、なんでこんなものがここに?
「このパフは、本来楽器屋レベルで装備する必要はない、といわれているものです。ちょっとした傷程度は、もっと小さなパフ装置ですんでしまいますしね。しかし先述のように、うちには実にいろいろな楽器が『待ったなし』で持ち込まれてくるのです。だから、なにがあってもいいように、万全の体制で臨んでいるんですね」
そして見せられたのが、パチンコ玉にしてはいびつで、しかも大きさがいろいろある銀色の玉の群れ。 「うちにはホントに、珍しい楽器の修理の依頼が飛び込んできます。我々職人にとってはうれしい話で、たとえばバスサックスやコントラバスクラなど、楽器屋でも店頭ではめったに見られない楽器の奥の奥まで知ることができるんです。一度でも触れば、どんな状態がその楽器の最善』の状態なのかを知ることが可能になる」 「本当はもっと秘密兵器があるんです。結局修理というのは凹みとかどこかが外れたとかいうことを『処理』するだけじゃなくて、お客さんの気持ちまで含めて『元通り』もしくは『元に限りなく近い状態』にするのが究極の目標でしょう?とな |
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雑誌「楽器族BRASStribe 2007 Vol.2より
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